Sunday, May 23, 2010

柔らかな頬 桐野夏生

はまってます、桐野夏生。この作品は直木賞を受賞したと聞いていたので、楽しみに読み出しました。

余談ですが、うちの仏人夫は本好き、仏訳されている日本文学は私に出会う前の学生時代に大体網羅していたようです。それなので、子供が通っているパリの日本語学校の図書館で新し目の本の仏語訳を見つけると借りてあげます。

さて、先日借りてあげたのが、「Disparation」by桐野氏。感想は・・・。珍しく気に召さなかったよう。話の筋を説明してくれて、確かに酷いし、ありえない設定。救いがない話なようで、ハッピーエンド好きの私には向かない、絶対避けよう、と心に決めました。

柔らかな頬、タイトルから言っても、また帯にある解説からも、ヒューマンな話のようで、よしよし、と、子猿、夫が寝た後に、ポートワインを啜りながらページを繰ります。落ち、見えます?そう、これ、Disparationの原本でした!こんな全然違う仏訳タイトルつけないで~!
まぁ、幼児誘拐がベースの話なのでDisparation、わからなくもないですが。原題の「柔らかな頬」・・・子供の頬を両手で挟むと、子供が嬉しそうに甘えて、その柔らかさに母親も幸せが満ちる、そこから来ているタイトル。こっちの方が胸が詰まります。そして、その子がさらわれて消えます。Living nightmare・・・そして、続く続く、暗い暗いインシデント、過去。これでもかって言うくらい、救いがない話です。

・・・でもよかった!
凄い筆力に引っ張られます。ありえない設定なのだけど、この気狂いな現代、何でもありえるし。夫がありえないと感じてしまったのには、仏訳バージョン、読んでもいないのに悪いですが、翻訳が桐野氏のレベルに負けていたからだと思います。ありえない設定かもしれないし、ありえるかもしれないし。そのうち、そんなの、どうでもいい、と思わされる強烈な展開です。

読む方がいらっしゃるかもしれないから、プロットには触れませんが、主人公カスミと母親の再会が身につまされます。親子って特別な絆だと言われていますが、それは一緒に歴史を、思い出を綴るからで、絡み合わずに生きていたら、そんな絆は糸より細いんだって。そういう事実を遠慮なく書く桐野氏、鋭すぎます。今度、帰省する際、母にお土産奮発しよう、と慌てた私です。死に向かう元刑事の心の動きの描写が巧すぎて、死という、普段出来るだけ避けて見ないようにしているカードを、目の前にバーンと見せ付けられたようなショックがあります。

救いのない現世をどうやって生き抜くか、そんなテーマの超ハードボイルドな話でした。

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