Wednesday, June 24, 2009

言葉の壁

来月、三年ぶりにパリに戻ることになった。

友人らには羨ましがられるが、豚に真珠、怠け象にパリ、本人はそんなでもない。
再びフランス語でまくし立てる人々の中、和まなくてはならないかと思うと気が重かったりもする。
前回住んでいたときも失敗したこと数知れず。伯母でとてもエレガントな方に、「是非今度うちでディナーでも」と誘ってくださっているのを聞き違え、不躾にも「いえ、結構です」と断ってしまったり、私は拙い仏語でアフリカのサファリの話をしていたのに「あそこの庭園は薔薇がきれいなのよね」と合いの手を入れられ、あぁ、やはり伝わっていなかったか、とか、そんなトンチンカンばかりだ。

でも外国に行くとはそういうことなんでしょう。言葉の壁があるのは当たり前なのだ。

昔、ロンドンで、「折角だから最新の映画を観よう」と友人に誘われ、リチャード・ギアが南部なまりで話す、というハイレベルな映画に入った。リチャード・ギアはモゴモゴで聞き取れない。私は想像力を駆使して話を追ったが、友人は確か英語が苦手だったはず・・・。
が、映画が終ると、「良かったねぇ!」と目を潤ませ感動している。良かった、話についていけたようだ。しかし!後でお茶を挟んで映画のデブリをすると、「ねぇ、何であの時彼は逃げたの?」「あの男は誰だったの?」「なんで処刑されたの?」と、彼女は立て続けに聞いてくる。全然わかってないじゃん!どうして感動できたの???

別の友人は英語力をブラッシュアップしようと、シドニー・シェルダンのペイパーバックにチャレンジ。
「結構快調に二十ページ程読めたから、一応確認しようと翻訳本で照らし合わせたら知らない人が五人も死んでいることになっていた。もう英語はあきらめようと思う」
と言った。その彼女、今は立派に海外に住み現地で働いているらしい。

井上靖の「おろしや夢何とか」という、ロシアに流れ着いた日本の商船の話を読まれた方はいるだろうか。鎖国時代の話だ。文化、風習、気候が全く異なる土地で、船長は肉を食べることを拒否する船員に「生き延びたいなら食え」と言い、ロシア語を学び、勇敢に、ひた向きに現地に順応しようとする。その姿に「私も頑張る!」と大げさに思ったものだ。

ちなみにこの本は「Reves de Russie(ロシアの夢)」という名でフランスにて出版されている。その他にも沢山、尊敬する井上靖の作品が仏訳されている。谷崎、三島、漱石は言うまでもない。「結構、気が合うじゃない、フランスったら!」と思う瞬間である。

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