Thursday, June 9, 2011

濡れ衣

友人でとても優しく、賢いキャロルと言う人がいる。離婚を契機に子供3人を育てながら、インテリア・デザイナーそして不動産仲介業者として成功をとげ、今は悠々自適なおばあちゃんライフを満喫している。縁あって彼女と親友になった。学習障害のある息子さんが学校でちゃんと受け入れられるようにと、学校の事務局に10年勤めたことのある彼女が、ある日児童虐待の容疑を化せられたという。30年も前のことだが、娘さんが転んでは擦り傷を作り登校すること数回で、知らぬ間に濡れ衣を着せられたと言う。4人の子を持つ大親友のフランス人夫婦もNYにいるときにひょんなことから同じような目に遭った。

突如、我が家にも同じ悪運が到来した。2週間ほど前の金曜日、買出しにミニバンを走らせていると携帯電話に地元のおまわりさんから、『お宅のお嬢さんは自殺を考えている可能性がある』というではないか???買出しもへったくれもあったものではない。あんな陽気な子が、まさかと思いながらも急に不安になる。何度電話をかけても応答しない娘に慌てふためき高速を飛ばす飛ばす。うちの周りは携帯電話の電波が非常によろしくないので、やっとつながると「へ?」という。一瞬に10年年老いた母と相変わらず若々しい娘が警察に出頭すると、どうやら娘の書いた小説が先生から通報されたらしい。誘導尋問の最後に娘がいう。この小説は自殺には一切関係がないと、虐待が課題なのだと。小説家を目指す娘の力強い執筆が認められたのだろうが、先生に送ってみたら?と単純に促した私が浅はかだった。そんなこんなで、今日は児童保護局に家族で出頭した。結果から言えば、一件落着、濡れ衣がはがされたのだが、とても考えさせられた。とらえようによれば、どのようにも解釈できることがたくさんある。末っ子が自転車のブレーキが利かないのを忘れて大転倒したことを書いたが、ほっぺたに大きな傷が付いてしまって本当に心が痛む。娘たちはすっころんですねに傷がある。次男はバイオリンの練習をするので、左の首にバイオリンのあたるところに傷がある。悪い担当者にあたれば、いくらでも虐待の証があるというもの。お~、こわ。

ホームレスの母親の自立を1年間居住空間を提供し、生活能力を培うべく支援する組織がある。昨日、娘とそこで共同生活をしながら自活を目指すお母さん二人に会ってきた。彼女らの人生を代弁し、短編小説に仕立てるのを、娘は目指す。そこへ巻き込まれ支援する役目が私である。恐らく想像を絶する体験をしてきたこの女性たちの優しさには腰を抜かした。裕福な家庭の子供に見えたに違いない娘の話をまじめに受け止め、「うちのおばあちゃんも、あんたはすごい人生を歩んできたから書き物にするといい、と言っているけど、自分ではかけないので、書いてもらいたい。でも、私の人生はものすごくグラフィックなので、その話をあなたにしていいものかためらう。もし、よければ、あなたと話す時にお母さんも一緒にいてもらいたいのだけれど。。。」と、気を遣ってもらう。まあ、なんと人間の美しさを感じることか。弱者の声を目指す娘の情熱を支援したいけど、濡れ衣は嫌だなあ~と正直思う。世の中の醜さをそれなりにみてきた私は、人様の不幸をあえて避けて通る路線を貫いてきたが、ここにきて、どうやら多少直視せざるを得ない局面にきているようである。ああ~、大変と思いながら、ワインを頂く。尋問された子供らは、アルコールや麻薬を家で使うかときかれ、みんな律儀に、両親はディナーの時に時折ワインを楽しむと答えていた。毎晩頂く母親が牢獄で狂人と化すのに哀れみを抱いてくれたのか。。。。ありがたい、と感謝していると遠方でサイレンが鳴り出す。母親の直感である。うちの末っ子が待たされるのに飽きて、火災報知器をいじっていて。誤って報知したらしい。本人は、あわてて駈けずり回っている。これをみて、バットをもちだし、攻撃しなかった両親は無罪放免と判断された。

ああ、大変であった。正義の国アメリカでさえこうなのだから、他の国のことを考えると怖くてたまらない。

3 comments:

  1. jubiさんの家族に起きるさまざまな事自体が小説になりそうですね。起業を試みて頑張っているお母さんが、子供達が引き起こす珍事に次々と巻き込まれていきながら、家族ともに成長していくという、ハッピーストーリーはどうでしょうか?

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  2. この濡れ衣、お父さんの場合はもっと大変かもしれない。パパ友(?)が、奥さんが入院している間、3児の面倒を見ていましたが、保育所・役所が介入してきて、もうダメだしばかり。挙句の果てに、子供達を里親に引き渡せ、ってなって大変苦労されていました。傍からみていると、こんなにできた親はいない、って言うくらい面倒みて愛情も注いでいるんだけど、男だから限界があるだろう、っていう色眼鏡で見られちゃうみたい。

    小説、いいね。日本では、桐野夏生という結構ハードボイルド作家がホームレスのおばあさんを登場させた話がありました。で、おばあさんが自分の生い立ちを語るんだけど、本当にすさまじいの。フィクションかもしれないけれど、現実感或る話でした。確かに親が一緒に聴いた方がいいと思う、大変だろうけど。

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  3. 日本では、一年くらい前は児童虐待かなっと思ったけど通報しなかったとか、家に確かめに行っても子供に会わせてくれなかったからと、手遅れになり死亡なんていうニュースが結構ありました。なんでもかんでも疑われるのはしんどそうだけれど、子供を守ろうと社会全体がやっきになっている感じが伝わります。こちらでは震災後の放射能汚染の問題でも子供を守るという姿勢が弱くて、お母さんたちがデモをしてやっと基準値が下げられた状態です。
    でも先生もひとこと本人に確かめてみるとかしてみればよいのにと思います。なぜこういう小説を書くにいたったのかを聞き出せば、本人の志の高さに感心はしても警察ざたにはならにのにと思います。

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