Je t'aime

豪邸を売りに出している。豪邸だけあって、値がはるので、家をお披露目する日は掃除に精を出す。今日はそんな一日で、朝から舞踏会に行く前のシンデレラのように雑巾がけから、ほこり取りやら、大変である。生活感のない家を演出するのは、思いっきり生活している我が家にはちょっとしたチャレンジだったりする。偶然子供たちは学校が休みで、いくところ行くところチリを散りばめていく。ただでさえ掃除が嫌いなわたしはキリキリ発狂寸前である。血走った眼とこめかみの辺りのテンションを見ては、子供らも緊張するらしい。たまには、怖がらせるのもいいかと、怖い顔して、『ほこり』『洗濯物』『靴下』などと単語を絶叫して歩いてみる。すると、みんな緊張して行動する。でも、つまらないしちっとも満足感がないので、やめることにした。ブルーチーズとアルフレッドソースのパスタのランチを平らげ、みんなで図書館、プール、その他諸々の用事を済ませ家にもどる。お披露目のあとの我が家は見る見るうちにもとのカオスを取り戻す。『ほこり』『洗濯物』『靴下』があっという間に蔓延する。このカオスこそマイホームなのである。肩の力を抜いた私をみて、夫までもが、『僕のこと、少しは好きですか？』と聞く。何故そんなわかりきったことを聞くのかと問いただすと、怖い顔をして歩き回っていたという。『ほこり』『洗濯物』『靴下』を拾って歩く時までJe t'aimeの顔は私にはまだできない。こうなれば未熟者の開き直りだ。